シンガポールの新型コロナ:超低CFRの謎
- jeremmiemoonchild
- 2020年8月7日
- 読了時間: 5分
更新日:2020年9月25日
ふと、WHOのデータを見て、日本の上にあるシンガポールのCFRの異常な低さに気が付いた。感染者数は54千人と日本より多いのに、死者が27人なのでCFRは0.05%である。世界のCFRが現在3.8%なので100分の1近い。

横軸に感染者数、縦軸に死者数を、両軸とも対数で世界の国々を配したグラフだ。右下の方にあるCFRが0.25%より低い国はいくつかあるが、ダントツでそのラインより遠く離れており、シンガポールは世界で特異的に低いCFRの国なのである。

経緯を見ると、4月に感染者数が1千人程度から1万人程度に急拡大する中、4月の下旬に死者も10人を超えた。それまでは0.25%のCFRライン(赤)よりも少し高かったが、その後はほぼ感染者ばかりが確認されてCFRは下がり続けたのである。

CFRが低い要因として一般に考えられるのは、
①人口構成上の高齢者比率が少ない
②高齢者の検査が少ない
③新型コロナを死因として認めない傾向
などが考えられる。イメージだけで語ってはいけないのかもしれないが、世界広しでいろいろな国があり、アフリカ諸国はどれもあてはまりそうな感じがする。シンガポールは古くから豊かな国で衛生観念も高く、どうなのであろうか。
シンガポールの人口ピラミッドを日本と比較してみる。かなりの少子化は見られるが、日本のようにひょうたん型上部の高齢者の膨らみは少ない。70才以上の割合は、シンガポールは6.7%、日本の21.2%の3割である。シンガポールのCFRが低い原因の一つが人口構成にあることは間違いない。
ただし、日本の6月までのCFRは5.1%(7月の感染者の山の死者はまだ到来していないので除外する。)なので、日本の無症・軽症者へのPCR検査が少ないことを考慮しても、これで説明できるのはシンガポールのCFRが0.05%ではなく、1%弱ていどではないだろうか。

詳しく見るために探したが、入手可能なシンガポールの年齢層別感染者数は、全体の感染者数が558人の3月25日現在のものであった。仮に、60才以上の感染者111人のうち、70才以上がその内訳人口比率通り34%だとすると38人(感染者総数の6.8%)である。このまま、54千人の6.8%に感染が広がったのであれば、3,672人の70才以上の感染者があったはずで、現状の27人ではなく、400人以上の死者が出ていておかしくない。つまり、人口構成、高齢者感染者数を考慮しても、まだ死者数が10分の1以下になる要素が説明できていない。

シンガポールの感染者や死者の統計が正しいと仮定して、原因となる仮説を考えてみる。
①高齢者の感染阻止(保護・隔離)に成功した
②死者を出さない治療技術に成功した
どちらも、本当であればまさに日本が見習うべき内容ではないか。
こちらに、シンガポールにおける新型コロナ対策がまとめられてあった。
これによると、以下がポイントのようだ。
① 3月30日に低熟練外国人労働者専用のドミトリーで感染クラスターが確認された後、外国人労働者の間で感染が一気に広まった。
② 政府は4月7日から、必須サービスや製造活動を除く大半の職場を閉鎖する部分的ロックダウン「サーキットブレーカー」に踏み切った。同居家族以外の相互訪問が禁止となった。食品など必須サービス以外の小売店が閉鎖され、飲食店の営業も持ち帰りやデリバリーに限る対応が続いている。
③ 政府は6月2日から部分的ロックダウンを解除したが、経済活動の全面的再開には極めて慎重だ。第1段階では労働力の3分の1が復帰するが、食品以外の小売店の開業や飲食店の店内でのサービスは第2段階にならないと始まらない。
読み取れるのは、外国人労働者という若く、ある程度文化的にも隔離された層で感染拡大が起こり、すばやく非常に厳しいロックダウンを行い、解除には極めて慎重であるということだ。おそらく、これにより高齢者への感染を数百人ていどに抑えられたということしか、CFRが低いままであることを説明できない。
ゆるい対策でしかも早めに全面解除し、感染の再拡大を許した後もGoToキャンペーンなど献金元だけを大事にしている体たらくな日本政府とは真逆だ。
ちなみに、PCR検査に関しては、6月下旬の段階で、「45才以上で呼吸器系症状のあるすべての人に検査をする方針」とある。
これは検査方針の明確なよい例だと思う。検査方針のよくわからない我が国とは大違いだ。検査方針とは、
①どういう条件下(この場合「45才以上」)の
②どういう症状(この場合「呼吸器系症状」)の人に
検査するということである。検査の目的とは以下の通りだ。
A:治療(その患者を診断し、治療をして救う)
B:隔離(その患者から他の人に感染させない)
C:感染状況把握(過去に行った対策を評価できる)
シンガポールの例で言えば、死に至る高齢者を必ず含むように45才以上で風邪症状の人は、A:早期治療が望める。また、B:他に感染させないことができる。そして、C:風邪症状の人の数や、その中でのPCR検査の陽性者の数の傾向がつかめ、対策を打った後の変化により、正しいことをやっているのか、もっと強い手段が必要かがわかるのである。
今思えば、日本の6月はチャンスであった。徹底した大規模検査と隔離で、他国よりも比較的容易に完全封じ込めに持ち込めた可能性が高い。死者数の予測(グラフ右)をすると、8月は4月と同じことを繰り返すことがすでに確定のようである。今からできることは、9月以降の指数関数的な死者の増加を食い止めることだけだ。これはもう、あきらかに人災である。

我が国の政治家には、他国の例を謙虚に学ぶ姿勢が求められる。ただし、本当に難しいのかもしれない。短期的な自分の評判よりも、「人の命と健康を守る」という強い信念が必要だからだ。はなからそんなものがない指導者にはしょせん無理な要求というものだろう。
「国民の命と財産を守りぬく」などというのは口先だけで、自分の立場を強化することだけが目的であることに、国民はようやく気づき始めた。
2020年8月7日
ジェレミー・ムーンチャイルド
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