旅客機は新型コロナの感染上安全なのか?
- jeremmiemoonchild
- 2020年9月20日
- 読了時間: 12分
更新日:2020年10月26日
<世界への拡散スピードの謎>
新型コロナが世界に伝搬する速度に驚いたのは私だけではないと思います。2019年の12月に武漢ではじまり、2020年2月のDP号、3月韓国、イタリア、イラン、4月にヨーロッパなど周辺国、少し遅れて米国、ブラジル、そして5月にはアマゾンの奥地まで達したという報道がありました。
なぜ、このように国境を越えるのが早いのでしょうか?国境を越える人は、その国の人口のほんの一部の人たちではないのでしょうか。強い感染力で、国民の何割もが感染するインフルエンザとはまったく違うはずです。ある国で感染率が0.5%にも満たないとして、どうしてそれが次の国に伝搬するのでしょうか。まるで、あえて感染者をピックアップして飛行機に乗せ、他の国で感染を広げているような印象すら覚えます。
<感染者の人口に占める割合>
こちらは、例として取り上げるイタリアに関するグラフです。スウェーデンに関するエントリーで紹介した、「真の感染者数は死者の100倍」説に修正を加え、その国の概況を見るために作成したフォーマットです。上のグラフはPCR検査数と陽性率(右軸)です。下のグラフは、灰色の面グラフが真の感染者数の推計で、青線グラフが実際にPCR検査で捕捉された新規陽性者数です。灰色よりずっと少ないのがわかります。赤棒グラフは死者数で、さらに小さくてほとんど見えません。左上に70才以上の致死率があり、10%が入力されています。その隣に全感染者に占める70才以上の割合がありますが、人口比の半分が自動的に入っています。この二つの%をかけて逆数にしたのが、真の感染者数が死者数の何倍になるかという数字でイタリアの場合123倍となっています。実際の死者より2週間前にこの真の新規感染者数が生じたと考えます。真の感染者数の累計や人口に占める割合が、上の右の方にあります。下には、人口に占める死者累計数の割合が左、陽性者の累計が真の感染者に占める割合が右にあります。

さて、日本がイタリアからの入国を拒否したのは3月18日で他国と比べ遅いと言われました。その前、3月上旬のイタリアで真の新規感染者数が約2万人の頃を例にとります。ウィルスを排出して感染源となる期間を平均10日とすると、その頃、20万人くらいそのような人がいました。これはイタリアの人口60,461千人の0.3%です。300人のイタリア人が飛行機に搭乗すれば、ようやく1人感染者がいた可能性があります。
感染は都市部に集中しますし、海外に行くような人は都市部に住んでいるとすると、もっと確率は高かったのかもしれません。逆に、症状が少しでもあれば入院したり、旅行を控えたりした可能性もあり、そうすると確率はもっと低かったのかもしれません。
いずれにしても、他国へのキャリアになり得るのは、およそこの程度の確率ではないかということになります。
<国境を渡る人の数>
通商白書2020の中に、世界の旅行者数がありました。知りませんでしたが、過去20年間に、年間に国境を越える旅行者数は2倍になり、なんと全人類の2割に達しています。単純に12で割ると、1ヶ月に全人類の1.7%です。こうしたことが、感染症の拡大に貢献していることは間違いないでしょう。
国の大きさはいろいろありますが、1千万人をベースに考えると、1ヶ月間に海外旅行をする人は1.7%として17万人で、そのうち上のイタリアの例で0.3%が感染しているとすると、510人が海外旅行をする感染者です。行き先が20か国に分散しているとすると、1か国あたり25人です。このような人数で、世界中津々浦々まで短期間にほんとうに感染が進むものなでしょうか。

<旅客機の換気>
このような計算をしていたわけではありませんが、新型コロナの世界的拡散を最初に見たとき、やはり航空機が怪しいのではないかと感じました。そもそも、国をまたぐものは他にあまりありません。当時は接触感染が主に言われており、飛沫・エアロゾルについてはちらほら主張はあるものの専門家は否定的だったと思います。私は、まったく思いもしない他の動物、たとえばダニかなにかが媒介して、飛行機に乗って国を渡るのではないかと思ったりもしました。いまでは、飛沫・エアロゾルが新型コロナの感染の主力と考えられています。
最近になってスウェーデンのエントリーで紹介した飛行機の換気に関する情報を得ました。3分で全空気を入れ替える量の換気を行っているとのことです。おそらくこれを強い根拠に、またほかの対策も含め、航空業界は航空機は安全であると主張しているのだと思います。住宅と比較してもしかたないのかもしれませんが、2003年7月の改正建築基準法では、1時間あたり0.5回の換気能力が義務付けられているそうです。旅客機はこれの40倍の換気ですから、屋外にいるのと同じのような気がします。私もそう思い、スウェーデンのエントリーでは旅客機内をロー・リスク・ロケーションに入れたわけです。

<旅客機でのクラスターの例>
ところが、3月に機内クラスターが発生していたことを伝える論文が米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention)のサイトに早期リリースとして載りました。2020年3月1日のロンドン発、ベトナムのハノイ行きVN54便です。当時、イギリスでは23人、ベトナムでは16人の新型コロナの感染者しか見つかっていない状況です。少し見にくいのですが、ビジネスクラスの赤の乗客が感染源でなぜかインデックスと呼ばれます。オレンジの15人(ビジネス12人、エコノミー2人、乗務員1人)に感染したということです。インデックスさんは、ファッション関係なのでしょうか、28才の女性実業家で2月の下旬にイタリア、フランスなどを姉妹と旅行していたようです。彼女は飛行前から発症し、飛行中もずっと喉の痛みと咳を経験し続けたそうです。

ベトナムに到着して、インデックスさんは自己隔離後3月6日に陽性確認され、ベトナム当局はこの便の乗員・乗客を徹底的に追跡しました。追跡できなかったのは、上の図で紫色の33人で、トランジット(空港乗り換え)などですでに国外に出てしまった人だけです。16名中13名を症状発生より前に陽性判明で補足できました。発症は12名で以下の通りです。4名は無症状だったということになります。
3月5日:1名
3月7日:2名
3月10日:2名
3月12日:2名
3月14日:2名
3月17日:1名
3月19日:2名

この論文においても、あえて機内以外にも、出発前のラウンジ、ロビーなどでの感染の可能性を排除していませんが、旅客機による往来が増えつつある現在、強い警鐘を鳴らすために書かれています。
もちろん、3月1日当時と比べ、今では改善された部分は多いでしょう。インデックスさんのように有症状の人が搭乗することは稀でしょう。咳などし続けていれば他の乗客から苦情が来るでしょうし、マスクもほぼ全員がしているのではないでしょうか。(日本では、国内便でマスク着用を拒否した乗客が、緊急着陸で途中で降ろされて物議をかもしています。)機内の感染対策も進んだことと思います。
それでも私がもっとも危惧するのは、機内がもしクラスター・リスクが高い場所だった場合、出発国では少ない感染者でも、あえてそれを1ケタ増やし、なおかつ増えた感染者は「潜伏期なので検疫をすり抜けてしまう」という可能性についてです。まるで、絵に描いたような「トロイの木馬」ではありませんか。なにかそのような、国境を越えてしまう「目に見えない仕組み」があってもおかしくないと思える世界中の感染状況だと思います。
<空港検疫>
これは本日分ですが、日本でも毎日のようにこのような空港検疫での輸入症例が発表されています。事例891とありますので、今までに900人近い感染者が空港で発見されました。表のタイトルにあるように無症状となっているのは、おそらく症状がある人は搭乗できないことになっているからでしょう。

無症状の感染者が感染源になることは、いまではもう可能性の範囲を越えているようです。むしろ、インフルエンザやSARSとは異なり、新型コロナの場合の感染性(ウィルスの排出量)のピークは「発症2日前」という報告もあります。こちらは、忽那賢志さんの記事から拝借いたしました。

私は、日本の検疫で陽性者が確認された場合、その感染者と同じ便の乗員・乗客全員を、ベトナム当局がインデックスさんのケースで行ったように、濃厚接触者として徹底的に追跡しているのかどうかを知りません。していなければ、感染制御に成功しているベトナムを謙虚に見習うべきです。
そして、もし、行っていない場合、さらに毎回インデックスさんのケースのように機内で10倍以上に増えた感染者が潜伏期で検疫をすり抜けていたとすると、今までに900人ではなく、9,000人以上の感染者を国内に持ち込んだことになります。極端な想定であることは承知して、最大のリスクを記述しています。
また、私は計算していませんが、ネット上には空港検疫の陽性率と、国内感染状況の相関を示すグラフを作成している方もいらっしゃいます。時々ある空港検疫のピークが実行再生産数を押し上げているように見える部分が多いのです。
<客室乗務員の抗体検査>
すべては、旅客機が新型コロナの感染ロケーションとして、ハイ・リスクなのかどうかにかかっています。これを知る方法があります。ハイ・リスク・ロケーションの従業員は、必ず感染し抗体を持っているはずだからです。つまり、客室乗務員の抗体検査をすればわかるはずです。ネットで探しましたが、いくつかの航空会社がPCR検査を行っているという情報だけで、抗体検査についてはあまり情報がありませんでした。また、PCR検査の結果についても、航空会社は社内秘として公開していないようです。
逆に、少し違う意味で有益な情報がありました。こちらは、コロナ前に客室乗務員の健康について書かれたものです。この中で、考えてみれば当たり前ですが、飛行機の中はいろいろな意味で地上とは環境が異なることが指摘されています。まず、気圧が違うこと、換気方法が特殊なこと、湿度が低いこと、エンジンブリードエア、オゾン、機内の化学物質が挙げられます。そして宇宙から来る放射線も忘れてはいけません。ようするに、ふつうとは異なる環境なのです。さらに、時差の違いや長時間フライトなどで乗務員も乗客も疲労しています。これらすべてが、新型コロナの感染に対してどのような影響があるのかはまったくの未知数です。この記事では、SARS、結核、コリザ、インフルエンザ、麻疹、髄膜炎などの感染症のクラスターの事実が言及されています。
新型コロナ・ウィルスおよびその感染にはわからないことが多いです。たとえば、日本の7月の感染拡大と8月の感染縮小を、7月に長引いた梅雨と8月の猛暑が原因と考えるのは、他にあまり候補がないという理由で有力ですが、筋の通るメカニズムを聞いたことがありません。さっぱりわかっていないのです。湿度、温度だけでもどのように感染に影響するのかが見えていません。したがって、航空機内の乾燥をはじめ、上述した極めて特殊な環境特性が、感染に寄与するものか、その逆なのかは客観的な証拠を積み重ねる必要があります。さらに、防疫は国家ごとに行っていますので、国家間をまたぐ手段としてより正確に把握する必要があります。もし、検疫が駄々洩れ状態であれば、正さなくてはなりません。
最後に提言しますと、国が機内のリスク・アセスメントとして、手始めに「客室乗務員の抗体検査」を実施すべきだと思います。そして、多くの客室乗務員に抗体が認められれば、機内はハイ・リスク・ロケーションとして認識すべきだと思います。その場合、検疫で陽性者が出た場合には、同機の乗員・乗客は全て濃厚接触者として追跡する強い根拠になると思います。
かりに、今はその追跡をしているから、もういいだろうというような発想ですと、なにも知見が得られず進歩も応用もありません。過去の失敗の責任追及を恐れ、事実に直面するのを避けたり、隠蔽したりしていると、問題は長引いたり悪化したりして慢性化し、ひいては国家の衰退に繋がる好例だと思います。
2020年9月21日
ジェレミー・ムーンチャイルド
2020年9月24日 追記、
CDCは、感染させるリスクのある患者が飛行機を利用した1,600のケースに基づき、11,000人が機内で感染した可能性があると発表したようです。1人の感染者が平均して6.9人伝搬させたことになります。原文にたどりつけていませんが、ワシントン・ポストによりますと、どうも、上のVN54便が主たる事実のようです。
途中に動画があり、むしろこちらが興味深かったです。空港も、機内もガラガラで、本来の10%くらいの便しか飛んでいないということです。アメリカの映像というと、デモで集団で騒いだり、トランプ大統領のラリーに集まったり、ビーチが混雑していたりと、自粛はもう形骸化していて、事実上崩壊している印象がありました。ですが、飛行機には乗らないということであれば、ビジネスマンは今でもできるだけテレワークをして、感染には気を付けているということのようです。
フォックス・ビジネスの同様の記事では、パードュー大学が以前作成したコンピューター・シミュレーションで飛沫が他の乗客に降りかかる様子が紹介されました。

2020年9月26日 追記、
もう一つ、CDCの早期リリースで機内感染関連が出ました。3月9日の事例ですが、米国ボストン発香港行きの便で、到着後に4人の陽性者が見つかり、「4人の患者すべてからのほぼ完全長のウイルスゲノムは100%同一」でした。機内感染の可能性が極めて高いとのことです。

ビジネス・クラスの夫婦から、客室乗務員の2人に感染したようです。ふつう、客室乗務員は食事の提供をするくらいで、その時に"Beef or chicken?"などと聞く短い会話をするくらいです。特別に話し込んだりしたのでしょうか。密閉された空間に長くいたことが感染に繋がったのだとすると、満席で294人の乗客がいたようですし、客室乗務員だけに感染して他の乗客に感染者がいないのも少し不思議です。

2020年10月26日 追記、
日本でも3月に国内便の事例があったことが、半年以上経過して感染研から発表されました。3月23日の関西地方の空港発、那覇空港行きの便ということで、飛行時間はたったの約2時間です。わかった範囲で14人に陽性者がおり、13人についてはウイルスゲノム配列も同一(もしくは1塩基変異のみ示す)ことが判明したそうです。座席表を見る限り、ほぼキャビン全体に激しく咳をしていた感染源の人のウィルス・エアロゾルが充満していたことがわかります。

ベトナムの例と異なるのは、徹底的に感染者を探す姿勢の無いことで、最初は左右の2列だけを追跡し、陽性者が多かったので少しずつ増やしたということです。わざとそう書いているのでしょうが、読んでもわかりにくい経緯です。ようするに感染研の判断が甘く、遅く、乗員乗客全員検査の方針にいたるのに10日以上かかり、141名のうち19名は把握すらできていないということです。
◆当初, 前および左右2列濃厚接触者3名中2名が発熱陽性(+2、計3)
◆4月1日に調査対象を前3列、後1列、 左右2列へと拡大し13名に連絡、連絡のついた10名中3名が発熱等の症状、うち2名がそれぞれの居住自治体で陽性(+2、計5)
◆2日には、C県より同県の確定例について、B便を利用した(+1、計6)
◆接触者調査の対象を左右および後列3列まで拡大、連絡がついた9名中2名が発熱等の症状、陽性(+2、計8)
◆調査対象外であったが, 対象者の代理として連絡がついたB便搭乗者が発熱、後日PCR検査で陽性(+1、計9)
◆乗員乗客全員へ調査対象を広げた。最終的に調査対象141名のうち122名に連絡がとれ, 沖縄県を含む7府県に居住する計14名の確定例が確認(+6?、計15)
いまどき咳をする人が搭乗することはないのかもしれませんが、国内便の時間でも危険であるということがわかりました。いまになって発表するのも理解できませんし、感染研はまったく信用おけません。
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